ダブルな恋愛小説 「風になる」第一話

ダブルな恋愛小説

「風になる」第一話

 

少し前の私は精神的に死んでいた。

病んでいたというよりも、死んでいたという表現がぴったりだった。

 

どこにいても、何をしても、

自分の居場所がなくて

ワクワクする感覚を

感じることができなかった。

そして何を食べても

味わうことができなくて、

でも何かを口に入れないと

気が済まないという状態だった。

 

そんな時にバイク専門誌で見つけた

 

バイクサークル、kizunaー絆ー

に参加したのは、もう1年前。

初めて主催者の

ダイキと話した時の印象は

今でも忘れられない。

 

「へー、ヤマハの

 ドラッグスター乗ってるんだ。

 センスいいね。よろしくね」

 

目の前の私のことよりも

バイクを興味深く見る

そのまなざしに何か光るものをみた。

初対面にしては失礼な態度に映る

その様子に、ふと無邪気な少年らしさを感じて、

私は何年か振りに自然と笑った。

 

笑顔を取り戻せた瞬間、

頑なに閉じていた心がほどけていくのを感じた。

 

「ダイキさん、よろしくお願いします。

 私はミナミって言います」

そう挨拶して、私はサークルの

メンバーに参加させてもらえることとなった。

 

1年経って今は

サークル内の女性リーダーをしている。

 

メンバーはありがたいことに

どんどん人数が増えていった。

特に女性が多いのが特徴。

 

メンバーの意見によると、

それは女性リーダーである

私の存在が大きいのだそう。

「ミナミさん、すっごい面倒見いいんだよね。

 女性ならではのバイクの悩みも

 丁寧に答えてあげてるじゃん。

 

 あと、メンテナンス方法も

 ダイキに聞きながら

 女性向けにレクチャーしてあげてるしさ。

 あとはツーリングツアーの旅館も最高にセンスいいしさ。

 バイク専門の宿は女性受けしない。

 

 その点、女性受けする温泉付きの旅館で、

 しかもしっかりとバイクを保管してくれる場所を

 確保してくれるからありがたいよ。

 

 やっぱダイキだけじゃ、

 このサークルは成り立たない。

 ダイキのワガママなサークル方針を

 ミナミさんがしっかりと支えてるのは

 誰でもわかることじゃないかな」

 

サークルの主要メンバーが

そんな風に私を褒めてくれる。

 

そうすると、

彼が喜んでその話に入ってくる。

 

「当たり前だよ。ミナミのバイクは

 俺が特別に定期メンテナンスしてるんだから。

 

 あれ?バイクの話じゃないっけ。まいっか。

 俺が言いたいのは

 俺はミナミに頭上がらないってこと」

 

そう言いながら、おどけながら私を抱き寄せてくれる。

このサークルでは私たちは公認の仲。

 

でもサークルを出れば、

世間からは非難を浴びるW不倫の関係だった。

 

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