小説  バレンタイン・ファンタジー 第二話

 

 

 

 

 

小説 

バレンタイン・ファンタジー

第二話

 

あのミーティングからずーっと彼と話をしていないの。

仕事でコミュニケーションが必要な時は、メールにしているの。

 

急ぎの案件は他の人にお願いしたりしながら、

彼と話をしなくても仕事が回るように調整しているの。

周りの人たちは、私に気を遣ってくれる。ありがたいな…....

周りの人たちに優しくされるたびに、

早く素直になって彼と話をしなくちゃって思うの。

そんなある日、営業部から大きなクレームが部長宛てに来たの。

クレームを受けた書類が経理部全体のメール添付資料で配信されるの。

 

その資料を確認すると、最終チェックが私になっていたの。

でも明らかに、経理部側のミスはないの。

それでも部長がすごく怖い顔をしながら私を手招きしているの。

しぶしぶ、部長の席の近くに行くと……..

「藤木さん、困るなあ。こんなに大きなミスをするなんて….….

最近、倉本課長とも全然話してないし。

それは大目に見ていたんだけど。

そんなワガママしてるから、

こんな大きなミスをしてしまうじゃないかな。

もういい加減にしなさい」

私の意見は何も聞かずに、一方的に怒られてしまったの。

 

部長、私にそこまで言わなくてもいいんじゃないのかな…….

心はズタズタになった。

 

積み上げてきたものが崩れ落ちて行くような感覚になって、

ショックな気持ちが抑えられないの。

フラフラになりながら席に着くと、

倉本課長が私の席に来て、小声で話しかけるの。

「ねえねえ、藤木さん、

 俺さ、今日定時で上がれるんだ。

 東京案内してよ」


「東京案内って言われても……..」

「そうだなー、

 安くてうまい飲み屋にでも連れて行ってよ」

じーっと私の目を見ながら、

少年のような笑顔で私を誘ってくるの。


「業務終了時間まで、頑張れよ。

 こっちも、頑張って定時で終わらせるからさ」

彼が励ましてくれるから、じんわりとハートが暖かくなるのを感じたの。

定時が終わって、赤ちょうちんが看板の、大衆居酒屋に彼を連れて行ったの。

急な約束だから予約できないし、安くて、うまい飲み屋というリクエストだったから。

「いやー、会社の近くにこんな風に気楽にお酒が飲める場所、あるんだ。

俺さ、ついこの前まで、福岡にいたでしょ。

福岡は屋台も多いし、こんな感じの店も多くてさ。

いやー、ここいいね。ありがとう」

彼はとっても聞き上手で、お酒を注ぐタイミングも絶妙なの。

だからかな…….ついつい飲み過ぎてしまうの。

 

お酒の力を借りて、

泣きながら今まで我慢していたことを全て話した。

部長は面倒な仕事を全部私に押し付ける。

手に負えない仕事は全て私に押し付けてくるということを話したの

彼は黙ってうなづきながら聞いてくれたの。

そのうちに自然な流れで私と密接するような距離で座ってくるようになったの。

もう、肩がべったりとくっつくような位置で二人で日本酒を飲んでいたの

気づくと、時刻は12時を回っていたの。

驚いて私、慌てて帰り支度をし始めたの。

「倉本さん、終電あります?私、タクシーで帰ります。

遅くまでお付き合いくださりありがとうございます」

「ああ、もうそんな時間かー。分かった」

彼はそういうと、お会計を済ませてくれたの。

二人でお店の外に出た途端、彼の顔が近づいてきて、あっという間に唇を奪われたの。

彼の情熱的なキスにトロンとした気分になってしまう。

流されてはダメと思いながらも、キスの誘惑に勝てないの。

「ねえ、2次会はウチで宅飲みしない?」

「え……..」

そういうと、彼はタクシーを呼び止めて私を押し込んだの。

 

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